英文を何度も声に出していれば、そこに出てくる単語も自然に覚えられるのでしょうか。音読は、単語のつづりと音を結びつけ、文の中で何度も出会う機会をつくります。ただし、「読める」ことと「意味を思い出して使える」ことは同じではありません。
音読を語彙学習につなげる鍵は、たくさんの単語を一度に覚えようとすることではありません。気になる少数の単語に注意を向け、意味を確かめ、文章を見ずに思い出してみることです。
単語を「知っている」とは?
単語を知っているかどうかは、○か×かだけでは決まりません。つづりを見て発音できても、意味が分からないことがあります。意味が分かっても、自分で話す時には出てこないこともあります。
語彙知識には、少なくとも次のような側面があります。
- 見た時や聞いた時に、その単語だと分かる
- 発音とつづりを結びつけられる
- 文脈の中で意味を理解できる
- よく一緒に使われる語や文法的な使い方が分かる
- 必要な時に自分の記憶から取り出せる
意味を理解しながら読む・聞く活動でも、偶然出会った単語の学習は起こります。しかし、24研究を統合したメタ分析では、その効果は肯定的である一方、一度の活動で覚えられる割合は限定的でした。語彙は、一回で完成する知識ではなく、複数回の出会いを通して少しずつ育つものだと考えられます(Webb, Uchihara, & Yanagisawa, 2023)。
音読が助けるのは、単語との「濃い出会い」
黙読では、知らない単語を目で追うだけで通り過ぎることがあります。声に出すと、つづりを見て音に変え、自分の声を聞き、文のリズムの中に置くことになります。その分、単語の形と音に注意が向きやすくなります。
第二言語の語彙学習で、単語を声に出して反復する条件と書いて反復する条件を比べた研究では、意味の想起や一週間後の語形想起に明確な優劣は見られませんでした。一方で、音声反復には音の記憶や発音動作を支える可能性も示されています。つまり、声に出すことには役割があるものの、それだけが常に最良の暗記法だとは言えないという慎重な理解が必要です(Candry et al., 2018)。
声に出すことは、単語との出会いを濃くする。
覚えるためには、意味を確かめ、自分の記憶から取り出す。
定着に必要な3つの動き
音読中の単語を覚えたい時は、次の三つを一続きにしてみましょう。
- 出会う:理解できる英文の中で単語を見て、声に出す
- 理解する:意味、発音、その文での使われ方を確かめる
- 思い出す:英文や答えを隠し、意味や英語の形を記憶から取り出す
三つ目の「思い出す」は、ただもう一度見ることとは違います。記憶をたどって答えを取り出す行為です。一般的な記憶研究では、再学習を繰り返すだけでなく、検索練習を行うことが長期保持に重要だと示されています(Karpicke & Roediger, 2008)。また、第二言語語彙を対象にした研究でも、一回だけでなく同じ学習時間内に繰り返し検索する条件が学習を支えました(Nakata, 2017)。
ただし、万能な反復回数が決まっているわけではありません。すぐ答えを見ず、少し考えてから確認する。その小さな負荷を、別の日にも繰り返すことが大切です。
8分でできる「語彙につながる音読」
普段の音読を単語テストに変える必要はありません。対象を3語ほどに絞れば、音読の流れを保ちながら取り組めます。
- 0–2分:英文を読み、覚えたい単語を3語まで選ぶ
- 2–4分:意味、発音、文中での使われ方を確認する
- 4–6分:単語を意識しながら、文や意味のまとまりで読み直す
- 6–7分:英文を隠し、単語の意味を言う。日本語から英語も思い出してみる
- 7–8分:1語を使って自分の文を作り、次に見直す日を決める
思い出せなかった単語は「失敗」ではありません。そこが、まだ記憶のつながりが弱いと分かった場所です。答えを確認し、もう一度声に出せば、次の練習が具体的になります。
Coachは、全部を教えなくていい
ONDENのCoachが、8分の中で語源や文法まで詳しく説明する必要はありません。学習者が選んだ単語について、一つだけ問いかけることでも「思い出す」機会をつくれます。
- “What does this word mean here?”
- “Can you say the word without looking?”
- “Can you make one short sentence with it?”
Coachの役割は、完璧な語彙授業を行うことではなく、学習者が自分で記憶を取り出す小さなきっかけをつくることです。分からない時は一緒に確認し、音読そのものの時間も守ります。
ONDENがこれから確かめたいこと
ここで紹介した研究は、音読を中心とするONDENの8分間の効果を直接証明するものではありません。ONDENでは、実践を通して次の問いを確かめていきたいと考えています。
- 8分の音読で、無理なく扱える新しい単語は何語か
- 普通に読み直す場合と、意味の想起を加える場合で定着はどう変わるか
- Coachの短い問いかけは、後日の想起を助けるか
- 学習者の英語力や目的によって、適切な支援はどう違うか
音読と語彙学習を結びつける方法も、「平均的に良い方法」を全員に当てはめるのではなく、一人ひとりに合う形へ育てていく必要があります。
まとめ
音読は、単語を覚えるための出発点になります。
- 声に出すことで、単語のつづりと音に注意を向けやすくなる
- ただ読めるだけでは、意味や使い方を知っているとは限らない
- 意味を確かめ、答えを隠して思い出すことで学習を深められる
- 一度に3語ほどに絞り、別の日にも再会する
READだけで終わらない。
NOTICEし、RETRIEVEし、もう一度CONNECTする。
参考文献
- Candry, S., Deconinck, J., & Eyckmans, J. (2018). Written repetition vs. oral repetition: Which is more conducive to L2 vocabulary learning? Journal of the European Second Language Association, 2(1), 72–82.
- Karpicke, J. D., & Roediger, H. L., III. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966–968.
- Nakata, T. (2017). Does repeated practice make perfect? The effects of within-session repeated retrieval on second language vocabulary learning. Studies in Second Language Acquisition, 39(4), 653–679.
- Webb, S., Uchihara, T., & Yanagisawa, A. (2023). How effective is second language incidental vocabulary learning? A meta-analysis. Language Teaching, 56(2), 161–180.